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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)416号 判決 1948年7月13日

主文

原判決を破毀し本件を廣島高等裁判所に差戻す。

理由

辯護人寺坂銀之輔の上告趣意は末尾添付の書面記載のとおりである。辯護人武田正雄は法定期間内に上告趣意書を差出さない。

第二點について。

原判決は、その引用する證據によって被告人が單獨で大山金太郎に暴行を加え同人の鼻翼部、上唇下顎部、左背部第八乃至第十一肋骨部等に全治約一ケ月を要するような打撲傷を與えた事実を認定している。しかし、その證據に引用している大山金太郎に對する司法警察官の聽取書、原審公判廷における被告人の供述及び醫師三津野郷右衛門作成の診斷書によると、被告人の外に三名の者が大山金太郎に暴行を加えたこと、大山金太郎が判示のような傷害を受けたことはいずれも認めることができ殊に原審公判廷における被告人の供述によると被告人は大山金太郎の頬を二、三回毆り更に胸を突いて同人を仰向けに倒れさせたというのであるから被告人の暴行が右傷害の原因の一部をなしていることは疑ないが、前記大山金太郎の供述によれば同人は數人の者に毆られたり踏んだり蹴られたりされたというので、被告人以外の他の者の暴行が右傷害に對し全然因果關係を缺くものとは斷定しきれない。むしろ反證のない限り數名の暴行が競合して一つの傷害の結果を発生せしめたものと認むべきである。

そして原判決の引用するところによっては、被告人の暴行のみによって大山金太郎に右の傷害を與えたことを認め得る證據は全くない。されば、原判決は證據によらないで罪となるべき事実を認めたことゝなり刑事訴訟法第三六〇條に違反したものと言わなければならない。尤も二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において暴行者の間に意思の連絡があれば共犯が成立するし、意思の連絡がなくてもその傷害を生ぜしめた者を知ることができないときは共犯の例に依るのであるから、暴行者の一人は他の暴行者の加えた傷害についても罪責を負うべきことは論を待たないが、かかる罪責を認めるためにはその事実を明かに判示して説明しなければならない。しかるに、原判決にはかかる説明がないのであるから、所論のように理由の不備があり論旨は理由があるものと言わねばならない。

よって、他の論旨に對して判斷するまでもなく原判決を破毀すべきものと認め刑事訴訟法第四四七條第四四八條の二により主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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